ラストパーティー


カウンターのすみにいる男の所に、若い派手な女が近寄っていった。
「何飲んでんの?やだ、ジュース?」
――大きなお世話だ!――
彼は酒が飲めない。「下戸」という以前に、あの舌に刺さるような苦味が
どうしても克服出来ないのだ。それに今は酒どころではない。
せっかく胸元の大きく開いた服を着ているのにまったく関心を示してもらえない事に
苛立ちを覚えた女は「つまらない男!」と言い残してその場を去った。
男――賞金稼ぎ・ジェイド暮崎が今関心を持っているのは、露出過多の若い娘ではない。
店の中央ではしゃいでいる中年の女だ。
「いいんだよ!今日は私のおごり!ほら、どんどん持ってきて!遠慮しないで!
さあさあ!楽しくやろう!」
店内に流れる「Boy from NY City」に合わせて踊る様はかなり不恰好だが、
周りの客は大喝采だ。
曲が終わりに近づく頃、その女、バーバラは腰を振りながらジェイドの方に来た。
「色男がひとりかい?シケたツラしちゃってさ。彼女に振られたんだろ?」
「ま、な。」
わざわざ自分が同性愛者だと宣伝する必要も無い。そう思い、ジェイドはちらっと
バーバラの顔を見た。
仕事柄、マフィアの大ボスの情婦だの娼館のおカミだの、スネに傷を持つ中年女を何人か知っている。
彼女ら、世間の裏も表も知り尽くした女達とは違い、バーバラはどう見ても
『ただのオバサン』だ。
「あんたもこっちへおいでよ。おごるからさ。酒飲めないの?いいよいいよ、
好きな物を頼みな。」
バーバラにうながされ、ジェイドは騒ぎの輪に加わった。大勢で騒ぐのは苦手なタチだが、
少しこの女の事が知りたくなったのだ。何が彼女をこれほど明るく振舞わせているのか、
どうしてこんなに楽しそうなのか。
――急ぐこたァないさ――
「あんた、彼女の連れの人?」
ジェイドは、ついさっきバーバラと一緒に踊っていた、30台半ほどのビジネスマン風の男に話しかけた。
「いやあ、ここで会ったばかりさ。面白いオバサンだよな。」
バーバラは、若い男達と何やらヒソヒソと話し、笑い転げている。
何かを忘れようとしているかのように…ジェイドにはそう感じられた。

「ああ、楽しかった!」
夜の公園。他の客達は次々と帰って行き、とうとうバーバラと二人っきりになったジェイドは
酔った彼女の介抱係兼ボディーガード係になってしまった。
バーバラは、さっきまで札びらを切っていた女にはそぐわないような
質素なバッグの中からタバコを取り出した。
「使い捨てライター、さっきの店に置いてきちまった。あんたの貸してよ。」
「いや、俺、吸わねえから。」
「酒だけじゃなくタバコもォ?あんた、修道士?」
「んな風に見えっかよ。」
大通りの見えるベンチにすわり、バーバラは「ちえっ」と言ってタバコをバッグに戻した。
「今日、ダンナと別れたんだ。」
「別れた?」ジェイドはバーバラの横に腰掛けた。通りを流れる車のライトを見つめ、
バーバラはボソリと言った。
「だからあれは慰謝料。娘も死んじまった今じゃ、あんなもんもらっても使い道がないのにさ。」
どうやら、あの店で惜しげも無く使っていた札束の事のようだ。そして、
大きく一つ息を吐き、言った。
「あんた、警察に連れて行ってくれるかい?」
「え…?」
ジェイドはバーバラの横顔を見つめた。バーバラも、そっとジェイドの方に顔を向けた。
「私を介抱してくれた時、背中に当たったよ、硬い物…。あれ、銃だろ?」
無言のジェイド。
「手配書、もう出回ってるんだろ?」

バーバラは語った。ダンナに女が出来た事。そのくせ世間体を気にして
離婚に応じてくれない事。こっちももうダンナを愛していない事。
自分と娘がダンナから暴力を受けるようになった事。
その為に娘が家を出て、他の町で事故死した事。その知らせが今日届き、
ダンナが「自業自得だ」と言った事。
そして…そのダンナを灰皿で殴り、腹いせに金庫の金を持ち出した事――。
それをすべて、賞金稼ぎに打ち明けたのだ。
「今夜は娘の分まで楽しんだよ…。ありがとね。こんなオバサンに付き合ってくれて…。」

公園の出口で、ジェイドの相棒が待っていた。車のライトに、長い黄金の髪が輝いている。
ファビアンは、バーバラと腕を組んで出てきたジェイドに言った。
「ご主人の意識が戻ったって。」
それを聞き、バーバラはジェイドの腕にしがみついた。その体は震えている。
「で?」
「離婚だって。」
「ずいぶんあっさりしてるな。」
「そんなものじゃない?」
「そっか…あ、お前、先にホテルに戻っていてくれ。」
「ラジャー。近くだから、歩いてくよ。」
ジェイドは、バーバラを自分の車の助手席にすわらせた。
「私に賭けられた賞金なんて、この車の燃料費にもならないだろ。」
「そうでもないぜ。副賞がゴージャスだ。」
「副賞?」
「美女とのドライブ。」
「そりゃあゴージャスだ!」
バーバラは笑った。

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