*これは, アイザックの13歳の誕生日の出来事です。たぶん。


   記念日


「すまない…アイザック。この埋め合わせは後日必ずするからな。」
師・水晶聖闘士の、心から申し訳なさそうな顔。
「いいですよ。教皇からの呼び出しじゃ仕方が無いです。それに、
俺達の成長ぶりを報告に行くんでしょ?」
師を送り出した後アイザックは、氷河に尋ねた。
「掃除と洗濯、お前、どっち取る?」
「洗濯、だな。」
氷河は少し考えた後、そう答えた。
「誕生日ぐらい、楽な方をやれよ。」

確かに、この家の掃除は楽だ。普段から、訓練に入る前に各自が自分の部屋を
掃除する事になっている。生活態度も真面目な水晶聖闘士の部屋が
キレイに片付いてるのは当然だとして、氷河とアイザックもお互い密かに
「あいつの部屋よりキレイにするぞ!」と思いながら床掃除に精を出しているのだ。
そして、師が朝から出かける時は、どちらかが師の部屋も掃除する事になっていた。
「先生の部屋なんて、掃除する所が無いじゃないか…。」
そうつぶやきながらアイザックは、本棚にキチンと並べられた本の背表紙を目でなぞっていた。
カミュから届いた手紙は机の引き出しに入れ、鍵がかけられているが、それ以外の物は
自由に見たり触ったりしてもいいと師匠から言われている。
だからアイザックは時々この部屋に入り、師の蔵書に目を通していた。
――これは前に読んだな。ああ、これはここに来たばかりの頃、途中で投げ出したヤツだ。
先生は『聖闘士の技を学問にするとこうなるんだ』と言ってたが…
俺も少しは理解出来るようになったかな?――
そんな事を考えながら、物理学の本を手にして師のベッドに腰掛けた。
――?――
枕の下に、薄い本――雑誌らしい物が挟まれている事に気がついた。
昨夜、眠る前にでも読んでいたのだろう。それを手に取ろうとしてアイザックは
――ふと、思い出したことがあった。
――以前読んだ本の中に、こういう場面があったぞ…――
それは確か、若い男を主人公にした小説の中の、ありふれた日常に関する他愛ない場面だった。
――まさか…な…――
アイザックは緊張した。水晶聖闘士は立派な尊敬すべき人物だが、彼だって若い青年だ。
それに、あの小説の主人公はごく健全な、真っ当な男として描写されていた。
――そ…そうだよな。俺の先生は、健全な精神を持ち合わせていない人間が正義や平和を口にしても
真実味が無いと言ってるし…。だから、先生が枕の下に変な雑誌を隠していても、何の不思議もないんだ、
うん――
「アイザック、終わったのか?」
その声に、アイザックの体が一瞬ビクリとした。
「どうした?」
「あ…いや…。もう洗濯は終わったのか?」
必死で取り繕うアイザック。
「とっくに終わってる。今日は晴れているから、すぐに乾くだろう――何を隠してるんだ?」
氷河は、アイザックの態度を不審に思った。そして「いや、何でもない」ととぼけるアイザックが
隠そうとしている物に気がついたのだ。
「これは何だ?」
アイザックを押しのけ、枕の下からためらわずに雑誌を引っ張り出す氷河。
「氷河!それは…!」
先生にだってプライバシーはある、と叫ぼうとしたアイザックを無視して、氷河はその表紙のタイトルを読んだ。
「園芸マガジン、か。」
――――!!!!?――――
「『特集・極寒地での薔薇作り』…そう言えば先生、家の裏に温室を作るとか言ってたな。」
――それに、マーマがこの氷の下で眠ってると話した時(さすがに、船を引き揚げる為に修業している事は
伏せてあるが)『手向ける花が無くては、可哀想だな』と言ってくれた…。ん?――
隣でアイザックがへたり込んでいた。

帰宅後、アイザックは師匠にあの出来事を正直に打ち明けた。
「誤解を招くような事をしないで下さいよ!先生!」
水晶聖闘士は、アイザックの話の途中から始まった笑いが止まらない。氷河の顔には巨大な「?」のマークが
張り付いているが。
――そういう誤解をする年頃になったという事か――
ある意味、これもアイザックの成長の証しだ。うれしいような、先が思いやられるような…。
「先生!いい加減、笑うのをやめて下さい!」
「す・すまん!ははは…。」

師はその翌日も、度々の思い出し笑いに苦しめられたのである。

INDEX

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析