渓谷に入ると、強い北風に舞い上がる雪が足跡を消していたが、一際目 立つ古城を見つけることは造作も無かった。
「止まれ!ここはリパイアの領主ユーリ様の城!無断で立ち入る事は許 さん!」
ミロの前に立ちふさがったのは、先の二人と同じプロテクターを着けた 一人の男だった。
「俺はこの谷を守る者・風戦士(エオリア)のエリオット!貴様、ユー リ様の弟ぎみを死に追いやった聖域の者だな!?」
――アレクセイの仇?――
すでにエリオットは臨戦態勢だ。
「何か誤解があるようだな。それに俺はユーリがこの城に連れ帰ったは ずの氷河という男を捜しているだけだ。」
「問答無用!」そう叫ぶとエリオットは、ミロに爆風にも似た熱い空気 の塊を撃ち込んだ。ミロは一瞬の差でかわしたが、背後の雪が瞬時に蒸 発したその力には驚きの色を隠せなかった。
――何という威力…――
騒ぎを聞きつけ、エオリアらしき大勢の男がどこからとも無く姿を現し た。
「エリオット!どうした!」
「何だ!その男は!」
「聖闘士が一人で乗り込んでくるとはいい度胸だ!」
「死ねえっ!!」
「やめろ!おまえ達の手におえる相手では…!」エリオットの制止の声 を聞かずに男達はミロに襲いかかろうとした。だが――
「うわっ!」
「う・動けん!」
ミロのリストリクションが男達の動きを封じた。
「氷河はどこにいる!答えるまで解放出来んぞ!」
一人の男が答えた。
「知らん!だが、ユーリ様は聖域侵攻の為に、その氷河とやらを仲間に 迎えるとおっしゃっていた!」
「何?」
「なぜなら、氷河こそがユーリ様とエレナ様の御心をもっとも理解出来 る男だからだ、と…。例え今の聖域から邪悪が一掃されていようと、 ユーリ様の弟ぎみを死に至らしめた聖域の罪は永遠に消えん!」
「貴様…!」容赦なく、男達の体にスカーレットニードルが撃ち込まれ ていく。
「考えを改めるか、それとも死か!スカーレットニードルを15発受け る間に選べ!何も知らぬ貴様らに、我らの罪を問われる筋合いは無い! アレクセイの死にカミュがどれほど嘆き哀しんだかを知らぬ貴様らに!」
痛みに耐えかね、次々と男達は倒れてゆく。最後に残ったエリオットが 静かに言った。
「だが、我々もまた、ユーリ様とエレナ様の哀しみを見てきたのだ。」 ミロもエリオットも、相手の様子をうかがいながら、己のコスモを高め ていった。

 氷河は、暗く冷たい部屋の中で意識を取り戻していた。どうやら地下 室らしい。
――俺は一体どうしたんだ…?そうだ…。何か敵意を感じて…――そし て――
――その後何があったんだ…?――
体中に鈍い痛みが残っていたが、立てない程ではない。
――ミロ!ミロが近くにいる!――
扉には外から鍵がかかっていた。氷河は拳圧で扉を破壊しようとした が、その扉はまるで何かに守られているかのように、傷一つ付ける事が 出来なかった。
――それにしても、この部屋の冷気は何だ…?――
周囲を見ると、壁や床のところどころが凍り付いている。しかし、氷河 が感じたのは、それによる物理的な冷たさだけではない。
――これは怒り――いや、強い憎しみだ!!――

 ミロとエリオットの激しい闘いによるコスモの爆発は、ユーリも感じ とっていた。その背後には、長く雪のように白い髪の男がひざまづいて いた。
「…アクィロ、どうやら君の力を借りねばならないようだ…。」
「は…。」

 ミロとエリオットの闘いに決着がつこうとしていた。
「スカーレットニードルはすでに14発。降伏するか、エリオット。」
エリオットは、力を振り絞って、麻痺した体を立ち上がらせた。
ミロは、最後一撃のアンタレスを撃ち込もうとした。だが――
「――すでに息絶えていたか……。」
 ミロは、古城の門を破り、行く手を阻もうとするエオリア達を倒しな がら奥へと進んだ。
「姿を見せろ!ユーリ!俺はアテナの聖闘士・スコーピオンのミロだ!」
その時――ミロを突風が襲った。その風はミロの体をガラス窓に叩き付 け、彼を再び城の外へと放り出した。ミロは鮮やかに雪の上に着地し、 城の方を振り返った。
「ユーリ様の城を君の血で汚さぬよう、外に出てもらった。」
ガラスの割れ落ちた窓に立つ、雪のような髪の男。
「私の名はアクィロ!私が北風ボレアースの化身なのだ!」
ミロはアクィロを見上げた。
「聞いた事があるな。吹雪の夜リパイアの山中で生を受けた者はボレア ースの化身であると。だが、ただの伝説だとも聞いているが?」
「どうかな?」アクィロは再び強風を放った。ミロは両腕でそれを防ぎ、 続けざまに繰り出されたアクィロの蹴撃から身をかわした。
――ミロ!――
ミロが新たな敵と闘っている気配を感じた氷河は、己の拳一点にコスモ を集中させ、憎悪に閉ざされた扉をようやく打ち砕いた。そして地上へ の階段を探しながら、今この城で起きている事を推測した。
――俺は地下に閉じ込められて――そこは憎悪のコスモに充ちていた ――ミロは多分、俺を捜しにきて――誰かと闘っている――その相手は ――
脳裏に浮かんだ、恩師に似た男…。
――いや、あのコスモはユーリの物では無い――

 ミロとアクィロの闘いは激しさを増していた。互いの拳がぶつかり合い、 蹴り、白い雪の上に鮮血が散り…。
――パワーもスピードも俺と互角か…もしくは…――
「アレクセイ様を聖闘士に育てた男と同じ黄金聖闘士の力とは、この程 度のものなのか。」
「何…?」ミロはアクィロをを睨みつけた。
「それだけの暴言を吐くようでは、それなりの覚悟は出来ているんだろうな?」
「何の覚悟だ?」
アクィロは、その目に冷たい笑みを浮かべた。
「私は思うままに話しているだけだ。アレクセイ様は本来、ユーリ様と 共に我らエオリアを統括なさるはずだった。聖闘士などで一生を終える 方では無かったのだ。
……話はこれだけだ!受けろ!ボレアル・ブラスト!!」
「くっ!」アクィロの放った突風に吹き上げられたミロの体は空中で体 勢を立て直し、真っ直ぐに着地した。
「ほう、私の拳を受けて倒れなかった男は、貴様が初めてだ。だが、も う一度くれてやろう!ボレアル・ブラスト!」
「愚かな!聖闘士に同じ技は二度と通用せん!」
ミロは咄嗟にアクィロの懐に飛び込んで、スカーレットニードルを撃っ た。
「馬鹿な…。」
アクィロの体が崩れ落ちた。
「この私が敗れるとは……。」
ミロは、息をきらしてアクィロの最期を見取った。
「北風の化身アクィロ…。もしも黄金聖衣を装着していなかったら、 ……敗れていたかも知れん……。」

――ミロとユーリを闘わせてはいけない!先生!エレナを、あなたの妹 を哀しませないよう、見守っていてください!――
「氷河!」
 地下から出た時、突然氷河は呼び止められた。その声の主は、大きな 翼のあるプロテクターに身を包んだユーリだった。
「氷河、今までどこに居たんだ?」
「え…?では、俺を地下に閉じ込めたのは、あなたの意志ではなかったのか?」
「君を閉じ込めただと?馬鹿な。地下室はもうずっと使っていない。 私はてっきり、君がだまって帰ったものだとばかり思っていたのだよ。 君の気配はこの城内から完全に消失していたが。」
――俺のコスモを消すほどの強い憎悪が充ちていたからだ――だが――
「こんな話をしている場合じゃあない!ユーリ!なぜミロが闘っている んだ!?あなたが憎むべき相手は俺一人だ!先生を死なせたのは…」
「やめたまえ!氷河!!」ユーリは大声で氷河を制した。
「弟の最期の状況は、このリパイアにも伝わっている。憎むべきは、ニ セ教皇に気付かずにアレクセイを死に追いやった聖域!」ユーリの声音 が元の静かなものに変わっていった。
「君なら、私の気持ちをわかってくれると思ったのだが…。」
「ならばなぜ、君は氷河の気持ちを理解しようとしない?」
その声の主を、ユーリは冷徹に見据えた。
「ミロ…。アレクセイの師の友で、弟とも親しくしていたスコーピオン の聖闘士…。つまり、弟を見殺しにした者の一人か。」
――!――
「もはや、きみ一人しかいない!聖域への侵攻はあきらめるのだな!」

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