小説
*水晶聖闘士の本名、出身地などが紹介されていない為、勝手に想像して 書いた「聖闘士星矢・外伝」です。ちなみに、水晶聖闘士の本名として 設定した「アレクセイ」には「守る者」という意味があるそうです。 (あ、時期はポセイドン編の後です)
風の渓谷

――馬鹿な…――
東シベリアの氷原。氷河は師・水晶聖闘士の墓標の前にたたずむ男の 後ろ姿を見て足を止めた。少しウェーブのかかった、淡い紫にも見える 銀色の髪。馬鹿な…先生が生きているはずがない!
氷河は足音を忍ばせて男に近づいた。男はその気配を感じ、静かに振り 向いた。「氷河?」その声もその顔も、あの懐かしい師のものに似てい た。男は言った。
「私の名はユーリ。アレクセイ―水晶聖闘士は私の弟だ。」

 北風ボレアースが住むと言われるリパイアの渓谷。風がまるで外界から 古い街並みを覆い隠すかのように吹き荒れる。氷河は、その奥の、特に 風の強い場所に建つ古城へと案内された。
「ここがリパイアの渓谷…。先生は、その所在は明らかにされていないと おっしゃっていたが…。」
城の中の長い廊下を歩きながらも、氷河は自分の前を歩く男に細心の注意を 払っていた。
――本当に信じていいのか?この男の言ってる事を――
「アレクセイが知らないのも無理は無い。物心がつかないうちに、この知を 離されたからな。
 ここは古い慣習の残る地だ。長子以外の男は、神殿に仕えるか、他の家で 教育を受ける事になっている。…見たまえ。」
氷河は、大きな扉のある一室に通された。そしてその部屋の壁に飾られた 沢山の写真や肖像画の中に、幼い頃の師の姿を見つけていた。母親らしい、 美しい女性の胸に抱かれた先生、風格のある男の膝の上で眠る先生、 見覚えのある笑顔で、ユーリとじゃれ合っている先生…。
「?」
そこには、何枚かの少女の写真があった。「この人は…?」
「それは、私達の妹のエレナだ。アレクセイがここを離れてから産まれ たので、彼は自分に妹がいる事も知らないだろうね。…ああ、エレナが 来た。」
「兄さん、お客様?」氷河よりも2・3歳上だろうか?肩にかかる、 緩やかな巻き毛はやはり師と同じアイスヴァイオレット。
「エレナ、ご挨拶なさい。アレクセイが聖闘士に育てたという氷河だ。」
エレナは優雅な微笑みを氷河に向けた。
「初めまして、氷河。エレナです。」
「あ…どうも…」
氷河は完全に困惑していた。
――先生の妹か…妙な気分だな…――
ユーリが静かな、少し重みのある声で言った。
「アレクセイの様子は時々従者に見に行かせていたんだよ。」
「え?」
「カミュの元で修業していた時も、君やアイザックを育てていた時も…。
生まれた時から、私とは違う何かを背負っているのを感じていたが、それは 『聖闘士になる運命』だったようだな…。
 優しくて真っ直ぐな…正義に反する行ないに対しては、それが教皇で あろうと恐れずに意見し、それが命を落とす結果に繋がったとしても…。」
――では、先生が最後に闘った相手が俺だという事も…?――
 彼らがどこまで、師の最期について知っているのかを、氷河には聞くことが 出来なかった。彼自身、まだあの時の心の傷が癒えていない。
「風がまた一段と強くなってきたな…。氷河、今夜はここに泊まるといい。
エレナ、彼に部屋を用意してあげなさい。」
「はい…。」

ベッドの上で氷河は、風の音を聞きながら考え事をしていた。真実を知 らないから彼らは、自分にこれほどの厚意を示せるのだ、いや、あの先 生の兄妹なら、すべてを知った上で、俺の気持ちを察して…?
――?――
何かを感じた。敵意に満ちた何かを。氷河は、そのものの正体を突き止 めようと、全神経を集中させ、静かに部屋を出た。
 その頃、ユーリの元に、一人の男が訪れていた。
「ユーリ様、ようやく聖域の所在を突き止めたとの報告が入りました。 すぐにビョルンとライアスを向かわせます。」
「そうか…。」

 同じ頃、東シベリアの氷原を、黄金聖闘士・スコーピオンのミロが歩 いていた。
――アテナがあえてこの俺にシベリア行きを命じるとは…何かお考えが あっての事か…?氷河の身に危険が迫っているとおっしゃっていたが――
――ん?――
氷原に誰かが倒れていた。
――氷河…?いや、違う――
ミロはその人物――エレナを抱き上げ、氷河達が修業時に寝起きしていた ログハウスへと連れていった。

「私は…氷河を捜しに来たのです…。私どもの城から突然いなくなったので この地に戻ったのかと思いまして…。」
 エレナは、ミロが作ったスープを飲んで、体の芯から暖かさを取り戻 していた。雪が止んでいたお陰で発見が早かったという事も幸運だった のだろう。
「だが、氷河はここにもいない。俺も捜していたところだが。」
――しかし妙だな、荷物も聖衣もここに置いたままとは――
――!――
ミロは何か、不快な者の気配を近くに感じていた。
「君はここにいろ。決して外に出るんじゃないぞ。」エレナにそう言い 残し、氷原へと飛び出していったミロは、親友のカミュの愛弟子の墓標 の前にいる二人の男の姿を見た。
「貴様達!そこで何をしている!」見た事の無いプロテクターに身を包 んだ大男と痩せた男は、お世辞にも「好意的」とは言えない笑顔をミロ に向けた。
「聖闘士か…。いや、何、聖域に出向く前に、我が主ユーリ様の弟ぎみ に御挨拶をと思ってな。」
「聖域に何の用だ?それに、そのユーリという男に招かれたはずの氷河 が行方不明になっているようだが、どこにいるのか知らないか?」 痩せている方の男がニヤリと笑った。
「何だ?あんたの友達か?捜すのを手伝ってやりたいが、こちらも急い でるところでな。」
と、その時――
「な…何だ…?体が動かん……!」
「俺に背後から攻撃しようとするからだ。」
ミロは、痩せた男と会話しつつも、後ろから大男が自分の首をはねよう としている事に気付いていたのだ。
「貴様!聖域に攻め入る前の腕ならしに、ぶちのめしてやる!!」
痩せた男がミロの顔面に拳を撃ちつけようとした。ミロはそれを軽くか わすと、キッと二人を睨みつけた。
「ようやく本性を表わしたか!」その右手の人差し指の爪は、瞬く間に 真紅に輝いた。
――スカーレットニードル!――
そしてミロは、倒れた男達を見下ろし、冷静な口調で言った。
「もう一度聞こう。氷河はどこだ?」
「し…知らん…。例え知っていても、誰が聖闘士の貴様になど……。」
「では、ユーリとやらに会って、直接尋ねてみよう。」ミロはその場を 立ち去ろうとした。
「ま…待て!こんな所に置いていかれたら、凍え死んでしまう!」
「よ…よせ…ライアス…聖闘士に命乞いをする気か…!」
「しかしビョルン…!いくら領主の命令とはいえ、死にたくは…!」
醜く仲たがいを始めた二人に、ミロは冷たく言い放った。
「君達が受けたスカーレットニードルはせいぜい5・6発。今俺が捜し ている男は、15発分の死の痛みに耐えたのだぞ。」
 ミロは、雪の上に残るこの二人の足跡を逆に辿って行った。その様子 を窓から見ていたエレナは、ミロの行き先がどこであるかを察し、そし てその視線をゆっくりと、部屋のすみに置かれた白鳥星座の聖衣へと移 して行った。

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